大阪高等裁判所 平成6年(行コ)21号 判決 1995年1月31日
控訴人(原告) 株式会社ダイヤモンドリゾート 外一名
被控訴人(被告) 兵庫県兵庫財務事務所長
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人らに対して平成元年一月九日付けでした料理飲食等消費税についての更正処分及び過少申告加算金の賦課決定処分をいずれも取り消す。
3 被控訴人が控訴人らに対して平成二年三月六日付けでした料理飲食等消費税及び特別地方消費税についての更正処分及び過少申告加算金の賦課決定処分をいずれも取り消す。
4 被控訴人が控訴人らに対して平成三年二月一四日付けでした特別地方消費税についての更正処分及び過少申告加算金の賦課決定処分をいずれも取り消す。
5 被控訴人が控訴人らに対して平成四年二月二六日付けでした特別地方消費税についての更正処分及び過少申告加算金の賦課決定処分をいずれも取り消す。
6 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨。
第二事案の概要
次のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」及び「第三 当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人らの当審における主な補充的主張)
1 本件施設の取得費の利用行為に対する対価性について
法一一四条四項の規程する「みなす課税」は、経営者が料金以外の経済的給付を利用行為の対価として受け取ったことを前提に経営者に対して課税するものであり、利用行為の対価というためには、経済的給付が当該施設の経営、言い換えれば収支計算に関わりをもっていなければならない。ところが、本件施設の管理運営は、収支計算のうえで本件施設の取得費とは全く無関係に行われており、オーナーが支払った右取得費は、本件施設の経営上、収入として計上されていない。したがって、本件におけるオーナー資格の取得費は、本件施設の利用行為の対価ではない。
2 経営者について
(一) 法一一四条四項にいう「経営者」とは、単に事実上の運営管理の決定権を有するというだけでは足りない。
第一に、右経営者は、当該施設の経営に基づく損益の帰属主体でなければならない。けだし、損益が帰属しない第三者には、利用者に代わって本件消費税を支払うべき経済上の関連性がないからである。
第二に、右経営者は、利用行為の潜在的対価を受領した者でなければならない。けだし、料金以外に経済的給付の存在していることが、みなす課税の根拠とされているからである。
(二) これを本件について見るに、まず、控訴人会社は、控訴人管理組合との間の経営委託契約に基づいて本件施設を経営し報酬を受けているにすぎず、本件施設の損益は控訴人管理組合にのみ帰属しており、損益の帰属主体という右(一)の第一の要件を欠くから、右経営者には当たらない。
(三) つぎに、控訴人管理組合は、オーナー資格の取得費を受領しておらず、潜在的対価の受領という右(一)の第二の要件を欠くから、右経営者には当たらない。
3 本件施設の所有権としての価値について
本件施設のオーナーは、レジャーを享受するとともに所有者としてのステータスを享受する意思を持って、本件施設の持分を購入したものであり、右持分には、単なる不動産の原価のほかに、ホテル形式でこれを利用するという付加価値が含まれている。そして、オーナー資格の取得代金は、右の原価と付加価値とを合わせた右持分の価格であり、右付加価値は利用行為の対価とみなされる入会金や権利金とは性質の異なるものである。
4 通常支払うべき料金について
(一) 本件施設の利用にかかる原価に関して、被控訴人が主張する原判決添付別紙1の経費計算(以下「別紙計算表」という。)の<12>において、総客室支出は、総支出を客室と客室以外の収入の比で按分して求めているが、そのように計算することが合理的である理由は存しない。
(二) 仮に右原価が被控訴人の主張のとおり六〇九〇円であるとしても、別紙計算表のとおり、収入額が支出額を上回っているから、原価を上回る料金をどのように設定するか、あるいは、原価のみを料金とするかは、経営者の裁量に属するところであって、徴税者である被控訴人が右料金の決定に介入するのは、理由のないことである。
(三) また、右原価を利用者からどのように回収するかについては、経営者の自由があり、いわば身内であるオーナーの料金を四八〇〇円にしても、非オーナーの利用料金収入とのバランスで経営が成り立つならそれでよいはずであり、通常支払うべき料金といっても、経営上の自由裁量を無視するものであってはならず、控えめな認定が必要である。
第三争点に対する判断
次のとおり訂正、付加、削除するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」の認定説示のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決の補正
1 原判決一八枚目裏末行の「解すべき」から同一九枚目表三行目の「認められる。」までを「解すべきである。」と改める。
2 同一九枚目表四行目の「甲」の次に、「第六号証、」を、同六行目の「第一七号証、」の次に「第二五、第二六号証、」を、同七行目の「第四五号証の一、二、」の次に「第五一号証、」を、それぞれ加える。
3 同二〇枚目表末行の「検討するに、」の次に「前記認定事実、甲第三ないし第五号証、」を、同行の「第一五号証、」の次に「第四四号証、」を、同裏一行目の「原告会社代表者尋問の結果」の次に「並びに弁論の全趣旨」を、それぞれ加える。
4 同二二枚目裏七行目の「甲」の次に「第六号証、」を、同八行目の「第五〇号証の一、二、」の次に「第五一号証、」を、それぞれ加える。
5 同二四枚目表一〇行目の「昭和六三年では、」を「昭和六三年一月から同年一二月までは」と改める。
6 同裏一〇行目の「である。」の次に「また、無料宿泊券を使用した人数が利用人員に占める割合は、昭和六三年一月から同年一二月までが二四・三パーセント、平成元年度が三一・八パーセント、平成二年度が二二・三パーセント及び平成三年度が二三パーセントである。」を加える。
7 同二五枚目表一〇行目の「オーナー」から同裏一行目の「宿泊しており、」までを「オーナーが無料宿泊券を使用して宿泊する以外に、毎年の平均で利用人数の約七八パーセントの人が、前記資格の違いによって金額は異なるもののいずれも利用に対する対価を支払って宿泊しており、」と、同三行目の「仕組みになっていること、」を「仕組みになっていて、現実にオーナー以外の人の利用は年間を通して五五ないし六五パーセントくらいに達していること、」と、それぞれ改める。
8 同二七枚目裏二行目から同三行目にかけての「売上利益」から同行の「であった。」までを「売上高から右原価合計額を控除した売上利益が約三四億六〇〇〇万円、売上利益から販売費約七億九〇〇〇万円を控除した営業利益が約二六億七〇〇〇万円であった。」と、同六行目から同七行目にかけての「約一四九万円」を「控訴人会社の売上原価からみれば、約一四九万円(土地の取得原価約四億七〇〇〇万円と建物等その他の売上原価約二二億二〇〇〇万円との合計額を持分一八〇〇口で除した金額である。)」と、それぞれ改める。
9 同九行目の「・単独処分」を削除する。
10 同末行の「オーナー資格」から同二八枚目表一行目の「実質的には、」までを「控訴人らの倒産等万一の場合に備えてオーナーの投資した資金を保全するための手段としているにすぎないものであり、その実質は、」と、同三行目の「会員制」を「預託金制」と、それぞれ改める。
11 同二九枚目表五行目の「手段」の次に「として採用されたもの」を加える。
12 同三一枚目裏五行目から同六行目にかけての「四〇〇万円」を「三二〇万円ないし四〇〇万円」と改める。
13 同三三枚目裏二行目の初めから同五行目の終わりまでを削除する。
二 控訴人らの当審における主な補充的主張に対する判断
1 補充的主張1(本件施設の取得費の利用行為に対する対価性)について
控訴人らは、本件施設の取得費は、控訴人管理組合の収支計算に計上されていないから、同組合が経営する本件施設の利用行為の対価ということができない旨主張する。
しかしながら、前記認定説示したところによれば、本件施設の持分一口の価値は約一四九万円、販売経費は約四四万円で、その合計は約一九三万円であるところ、右持分は一口三二〇万円ないし四〇〇万円で分譲されたもので、右分譲価格には、一口につき、金額にして一二七万円ないし二〇七万円、割合にして右持分の価値の八五ないし一〇七パーセントの付加価値が含まれていること、このように大きな付加価値は、本件施設を構成する土地、建物及び什器備品等の物に対する所有権の価値から直ちに生じ得るものではないところ、控訴人会社は預託金制ホテル及び共有制ホテルを順次建設し、会員を募ってクラブシステムのリゾート事業を行ってきたものであり、本件施設も控訴人会社のそのような事業の一環として建設されたものであって、培われたノウハウに基づいてサービスが提供される、控訴人会社運営のリゾートホテルを利用できるからこそ、右付加価値が発生したものであることが認められる。したがって、本件施設の取得費には、物の所有権に対する対価のほかに、本件施設において控訴人会社運営のリゾートホテルの生活を享受できることに対する対価も含まれているものと解するのが相当である。そして、この利用行為に対する対価の部分は、ホテルの運営に当たる控訴人会社の取得分として、オーナーから控訴人会社に対し直接前払いの形で支払われ、控訴人会社が右前払い分を取得することを当然の前提として、控訴人管理組合の収支計算がなされているものと解される。したがって、控訴人管理組合の収支計算に計上されていなくても、本件施設の取得費の利用行為に対する対価性を認めることができる。
右のとおりであるから、控訴人らの前記主張は採用することができない。
2 補充的主張2(経営者)について
控訴人らは、控訴人会社は損益の帰属主体ではなく、控訴人管理組合は本件施設の取得費に含まれる利用行為の潜在的対価を受領していないから、いずれも、みなす課税を定めた法一一四条四項にいう「経営者」に当たらない旨主張する。
しかしながら、前記認定説示したところによれば、次のとおり認められる。すなわち、控訴人会社は、自己の行うリゾート事業の一環として、共有制ホテルの本件施設の持分を分譲し、ここで営業を行っている。そして、控訴人管理組合の控訴人会社に対する本件施設の管理運営の委託は、控訴人会社が共有制ホテルの円滑な運営のために考案した仕組みで、右分譲の前にあらかじめその採用が予定されていたものであり、経営破綻などの特別な事情でも生じない限り、控訴人会社以外の者が右委託を受けて本件施設の管理運営に当たるような事態はあり得ないことである。そのうえ、控訴人管理組合は、宿泊料金等を受領し経費等の支出を行うなど、外形上は損益の帰属主体となっているものの、控訴人管理組合を構成するオーナーの意思は、本件施設の管理運営にほとんど反映されておらず、控訴人会社は、控訴人管理組合の理事会の決議という形式を通して、自己の意思に基づき、実質的に本件施設の管理運営を行っている。また、本件施設の営業による収益は、本件施設の取得費に含まれる利用行為の対価の前払い分及び委託契約上の報酬をそれぞれ受領する形で、控訴人会社が取得しており、オーナーは専ら本件施設の利用(年間五枚の無料宿泊券、年間三〇枚の有料オーナーメイトチケットの取得を含む。)を中心とする利益を享受するほかは、配当等の収益の分配には預かっていない実情にある。
これらの認定事実によれば、控訴人組合は、本件施設の収支に関連して外部との間の権利義務関係の外形的な帰属主体となる役目を果たし、他方、控訴人会社は、本件施設の管理運営に関して経営判断と意思決定を行い、これに従って業務を遂行するなど、内実において経営の実務を受け持っているのであって、控訴人両名は、いわば外と内に大別して役割を分担し、共同して、本件施設を経営しているものというべきである。
以上によれば、控訴人らのいずれが欠けても、本件施設において現在行われているような形態でのホテル経営は成り立ち得ないから、法一一四条四項の適用においては、控訴人管理組合の損益の帰属主体たる地位と、控訴人会社による本件施設の取得費に含まれる利用行為の対価の受領とを、一体的なものとみなし、両者がともに同条の定める「経営者」に該当すると認め、控訴人らは、本件消費税につき不可分又は連帯の支払義務を負うものであると解するのが相当である。
したがって、控訴人らの前記主張は採用することができない。
3 補充的主張3(本件施設の所有権としての価値)について
控訴人らは、本件施設の持分には、不動産の原価のほかに入会金や権利金とは性質の異なる付加価値が含まれている旨を主張するけれども、前記1において説示したとおり、本件施設の取得費には本件施設の利用行為に対する対価の性質を有する部分が存在するところ、これは預託金制ホテルにおける入会金や権利金と同趣旨のものであると解せられるから、右主張は採用することができない。
4 補充的主張4(通常支払うべき料金)について
控訴人らは、本件施設の利用にかかる原価を求める別紙計算表<12>の計算方法には合理性がなく、また原価にどれくらいの利益を上乗せするか、さらに原価をオーナー及び非オーナーのいずれからどの程度回収するかは、経営者の自由な裁量に委ねられるべき事柄であり、徴税者がこれに介入すべきはないと主張して、被控訴人が本件施設において通常支払うべき料金の認定をしたことを非難する。
ところで、法一一四条四項は、旅館等の経営者が利用者から料金以外の何らかの給付を受け、無料又は著しく低い料金で利用行為をさせた場合、無料の故に課税をせず、低料金を基準に課税をしたのでは、他の経営者との均衡を欠き、税負担の回避を容易に実現させてしまうことになるので、税負担の均衡回復と回避防止のため、料金以外の反対給付のない場合の料金を通常支払うべき料金とみなして課税標準とし、当該旅館等の経営者を納税義務者とみなす、いわゆる経営者課税を規定したものである。この規程の趣旨からすると、課税主体は、課税標準と課税義務者に関する右特例を適用するために、右の通常料金の認定を行うけれども、右認定にはこの課税上の必要という以上の意味はなく、右認定の故に料金に関する経営者の自由な裁量権が侵害されることはないものと解される。そして、右の通常料金とは、旅館等に入会金や権利金等を支払うなどの施行令四一条の定める特別な経済的関係が存しない者がその利用行為について支払うべき料金をいうのであって、例えば、会員制を取っている旅館等において、非会員の料金が定められている場合には、その非会員の料金を当該場所における通常支払うべき料金とするのが相当である。これを本件についてみるに、前記認定説示したところによれば、オーナー及び非オーナーを含めた利用者のうちに占める割合が一番大きいオーナーメイト料金を、右にいう非会員の料金と認め、本件施設について通常支払うべき料金と見なすのが相当であり、オーナーメイトの現実の利用状況に照らすと、右のみなす料金を認定するためには、あえて原価計算をするまでの必要がないことが認められる。
右のとおりであるから、控訴人らの前記主張は採用することができない。
第四結論
よって、原判決は相当であり、控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 宮地英雄 山崎末記 富田守勝)